はじめに
著者:Guy Hajj Boutros , Marie-Anne Landry-Duval, Mauricio Garzon , Antony D Karelis
雑誌:European Journal of Clinical Nutrition,2020,Nov (ページ分からず)
日本語にすると”ヴィーガンの食事は持久力と筋力に有害であるか?”です。2020年のものなので新しい研究ですね。今回もほぼ翻訳になっています、余力があれば次回要約だけにして載せようと思います。
今まで読んでいたテイストとは異なるこの論文を読もうと思ったきっかけは、ヴィーガンの方が「ヴィーガンのアスリートやボディビルダーもいる」と仰っているのを聞いたからです。
※黄色の蛍光ペンは大切だと思ったとこと、ピンクの蛍光ペンは私の言葉です。
導入
植物ベースの食事は、心血管系疾患・糖尿病のリスクを減らすといった健康促進効果が提示されて以降よく見られるようになった。しかしヴィーガンの人ではタンパク質、ビタミンB12・D、クレアチンなどの欠如があることから、未だにヴィーガン食と運動パフォーマンスの低さに関連があると思われている。
以下の段落は過去のヴィーガンと運動の研究について
ベジタリアン&ヴィーガンと雑食の人における、持久力や筋力を比較をしている研究もある。2年間ベジタリアンと雑食という食事タイプの若いアスリートを観察・比較したときに、VO2Maxでの有酸素レベルや有酸素パフォーマンス、握力において差が生まれなかった[8]。また、年配女性においてもベジタリアンもしくは雑食とでVO2Maxの差はなかった[9]。さらに、若いアスリートにおける、様々なベジタリアン(完全菜食主義・・乳製品はOKのベジタリアン・卵もOKのベジタリアン)と、雑食とを2年間比較して、雑食の人よりも、ベジタリアンの女性の方がより高いVO2Maxレベルを保持していることを報告した[10]。最近の研究では趣味でランナーをしているベジタリアン・乳製品と卵はOKのベジタリアン・雑食という3タイプ若いアスリートの、エルゴメーターでの最大パワーを比較している。(食事期間は半年から3年)。この研究では男女ともに、3つの食事グループにおいて差異は見られなかった。その研究では筋力測定が行われていなかった。
植物ベースの食事による身体パフォーマンスを調査している多くの過去の研究では、ベジタリアングループの中に様々なタイプの菜食主義者が混ざっているので、発見や結論を解釈することは難しい。加えて、ヴィーガン食が増える傾向にあるので、ヴィーガン食の影響というのはあまり明確ではない。
このトピックについてもっと調査する必要がある。従って、本研究の目的は、より特徴付けられた集団でのヴィーガンと雑食の人における持久力と筋力の違いを調べることである。
実験方法
参加者
2018年11月から2019年8月までで総勢56人の参加者が集まった。
参加要件は以下の通り
- 18-35歳
- body mass index(BMI)が18.5ー24.9kg/m*2
- 週に150-200分の有酸素運動をしている
- 整形外科的疾患がない
- 非喫煙者
- あまりお酒を飲まない(1日1杯以下)
心血管系の疾患・癌を持つ人や妊婦は参加出来ない。
「毎週何分くらいの有酸素運動をしますか?」という質問で、運動状況の自己申告をして貰った。若い女性におけるヴィーガンの普及率が年配の人や男性に比べて多いことから、今回は若い女性に限って募集した。
56人は彼女らの食事を元にヴィーガン28人、雑食28人に分けられた。ヴィーガンは植物由来の食事のみ、雑食の人は少なくとも週に3回は肉を食べなければならず、その食生活は少なくとも2年間続いた。被験者募集の過程で参加者は皆、自分がヴィーガンなのか雑食なのかを判断し、彼らの栄養状態は食事日記にて確認される。
手順
電話でスクリーニングを行い、Université du Québec à Montréal (UQAM・カナダ モントリオールのケベック大学)のスポーツ科学部門に招待した。テスト前3-4時間は何も食べず、運動もしないようにしてもらい、女性は月経周期の中の卵胞期(follicular phese)にテストを行った。また3日間の食事日記を書いて貰った。
1.推定VO2Max
2.上半身の筋力(チェストプレス)
3.下半身の筋力(レッグプレス)
4.人体測定(anthropometric)と体組成測定
5.最大下の持久力テスト
推定最大酸素消費量
サイクルエルゴメーターを用いて、最大酸素消費量(VO2Max)を評価した。70-80rpmをキープした状態で、50Wで2分から始まり各々の限界まで2分ごとに25Wずつ増やした。VO2Maxと最大出力のワット数は以下の式で求められる。
VO2Max(ml/kg/min)=10.8×(W÷体重(kg))+7
ここでいうWはテスト中に到達した最大パワー出力のワット数
最大出力(watts)=Wlast+(t×Δ/T)
ここでいうWlastとは最後に成し遂げた負荷量
tは最終ステージで耐えた秒数
Δはワット数の増加量
Tはエルゴメーターテスト全体の時間
筋力
筋力はアトランティス(メーカー)のチェストプレスマシンとレッグプレスマシンを用いて、1RM測定を行うことで評価された。チェストプレス→レッグプレスの順でテストを行った(フォーム詳細の翻訳はパスします)。
アップ:軽い重量で10回
1RM測定:4分の休憩を挟みつつ5回の挑戦が可能
※結果の筋力指標:除脂肪体重あたりの挙上重量
体組成
体重、体脂肪率、除脂肪体重はX線の吸光光度計?(dual energy Xray absorptiometry)を用いて測定した。また身長は、壁に取り付けられた身長計で測定。
body mass index(BMI)=体重(kg)÷身長(m)2
最大下持久力テスト
サイクルエルゴメーターにて測定。VO2Max測定テストでの彼らの最大出力(ワット)を用いて彼らの最大パワー出力を計算し、その70%で本測定を行った。スピードは70-80rpmの範囲で保持したまま、参加者はそれぞれ疲労困憊までペダルを漕いだ。
食事摂取量(dietary intake)
3日間の食事日記から食事摂取量を評価した。参加者は平日2,休日1の計3日の間の食事日記を、調味料や飲み物も含めできるだけ詳細まで書くことを求められた(PFC,サプリメント,調理方法まで)。終了時に栄養士によって、その記録は不足を埋めるなどして完成に近づけられたり、彼らの食事がヴィーガンか雑食かどうかの確認もした。食事日記はESHAというソフトを用い、3日の平均の総摂取エネルギーやミクロ/マクロの栄養素の評価がされた。
統計的分析(statistical analysis)
データは平均±標準偏差で示す。kurtosis testで参加者の体組成の変数の分布を区別し、エクササイズパフォーマンスの変数は-2~+2に配分された。その後、ヴィーガンと雑食の個人個人について、独立したサンプルのt検定(Independent-samples t-test)を行った。
(日本語が怪しいです💦各実験はそれぞれに適した分析を行ったそうです、詳細は省きます。)
結果
ヴィーガングループは平均4年±2.6年の間ヴィーガン食を取り続け、雑食グループはずーっと雑食であった。
表1について:体組成
・体重、BMI、体脂肪率、除脂肪体重は両グループで同等。
・年齢はヴィーガンの方が大幅に上だった。(p=0.009)。
表2について:運動パフォーマンス
・推定VO2Maxは雑食よりもヴィーガンの方が遙かに高かった(p=0.03)。
・ヴィーガンの上半身の筋力は低くなる傾向にあった。(p=0.06)。
・身体活動と下半身の筋力は両グループで特に差は無かった。
・さらに、ヴィーガンの方が最大下持久力テストで、著しく高い結果を出した。(ヴィーガン12.2±5.7:雑食8.8±3.0min, p=0.007 ←ばらつきはあるものの平均4分弱もヴィーガンの方が多い!!)。
・VO2Maxを固定して統計をとると、最大下持久力はヴィーガンのほうが圧倒的に高かった。(ヴィーガン11.7±4.3min:雑食9.3±4.3min, p=0.049)。
・年齢によるVO2Max・最大下持久力・筋力の差には相関性があまりないが、年齢を固定したときにヴィーガンと雑食とでVO2Maxと最大下持久力には大きな差が見られた。
表3について:参加者の食事の栄養素
ヴィーガンで多い栄養素:炭水化物、食物繊維、ビタミンC、鉄、マグネシウム
ヴィーガンが少ない栄養素:タンパク質、ルチン、アラニン、脂質割合、飽和脂肪酸、ビタミンD,B12
同じだったもの:総エネルギー量、脂質、ナトリウム
考察
本研究の目的は、ヴィーガンと雑食の人との間で、持久力と筋力を比較することだった。ヴィーガン食は持久力や筋力を求める人、特に若いアクティブな女性にとって有害ではないという発見があった。そして、VO2Maxのレベルはヴィーガンのほうが明らかに高い結果になった。この結果は、Lynchによる様々な若い女性のヴィーガングループにおいて優れたVO2Maxの最大レベルを示した過去の研究結果に似ていた。しかし、別の2つの研究ではベジタリアンと雑食との間にVO2Maxの最大レベルの相違はないという結果に至っている。
私たちが知る限り、ヴィーガン食がVO2Manに依存する最大下持久力パフォーマンスにおけるより良い効果をに関連しているという結果を示した初めての研究である。ヴィーガンが最大下持久力パフォーマンスに優れている理由の可能性の1つに、炭水化物摂取量が多いことがあげられる。より多い炭水化物摂取量が、優れた持久力パフォーマンスに関連したり、筋肉中のグリコーゲンの貯蔵量を増やしたりするという証拠はある。他にも、酸化ストレスとinflammtion profile(炎症プロファイル?)によってヴィーガンの優れた持久力が引き起こされたの可能性もある。
さらに、双方のグループにて上半身と下半身の筋力の違いはなかった。(レッグエクステンションのピークでのトルクに差がなかった過去の別の研究と同じく)。最後に、本研究ではBMIと体組成についても2グループ間で差が見られなかった。研究ごとの不一致がある、それらを解明するために、今後ヴィーガンと雑食の人における体組成の違いについてはさらなる研究が必要だろう。
今回の結果は臨床的・練習的な点では役に立つ。 栄養士や運動学者といったヘルスケアのプロにエクササイズにおけるヴィーガン食の役割を知ってもらう必要がある。ヘルスケアのプロはヴィーガン食を否定せずに、運動プログラムの中の実用的なオプションとして考えるのがいいだろう。また今回の研究は、身体的に活動的で健康的な女性つまり一部の集団でだけを対象にしていたし、有酸素的運動活動についてはたった1つの質問で判断している。(つまり限定的であると言うこと)それでもこの発見は予備的に考慮すべきであり、またこの発見により異なる集団における運動パフォーマンスにヴィーガン食が与える影響の研究について更なる好奇心が刺激された。
本研究は、ヴィーガン食は健康的で若い活動的な女性において持久力と筋力に有害ではないだろうという結論に至った。これは2年以上の長い期間ヴィーガン食をとり続けることは、筋力を維持するための十分なサポート力があり、最大下持久力トレーニングの比較実験で見せてくれたように優れた持久力パフォーマンスに効果的であるかもしれない。一般的に信じられている内容とは矛盾していた。
知らなかったことなど
ラクトオボベジタリアン(lacto-ovo vegetarian)→動物性食品を避けるものの、卵と乳製品は摂取するベジタリアン(菜食主義者)。
ラクトベジタリアン(lacto-vegetarian)→動物性食品は避けて、乳製品は食べるベジタリアン。
body mass indexは日本で言うBMIであること。単位がkg/m2なので最初気づかなかった。日本ではBMIに単位を付けていない気がする。
感想
この研究では、ヴィーガンのほうが持久力は優れた結果を出し、筋力は雑食の人と差が無いという結論になっています。
ヴィーガンのほうが、動物性食品からとれる栄養が無くなるため栄養が足りないという点から、持久力や筋力は減るものだと思っていました。しかし実際のところそうではない可能性があると分かり、結構衝撃を受けました。科学が全てとは断言できないですがトレーナーの立場として、当たり前ですが一般的なイメージだけに流されず科学的研究も調べた上で知識は付けていくものだなと思いました。
気をつけるべきは「植物性食品の摂取量を増やしたこと」と「肉食をやめたこと」は別ということかなと思います。つまりヴィーガン食の何がこの結果に繋がっているのかどうかまでは分からないことです。肉食を否定する理由にまではならないので要注意です。
ヴィーガン食でも筋力の低下が見られない上、持久力に関しては雑食よりも優れている可能性があるだと…??舐めてたわ。
確かに、江戸時代の日本人は玄米を主食としていたにも関わらず、一日に何十キロも走ったとか聞いたことがある…もしかしてそういうことか!?
もし最後まで読んでくれたる人がいたら、ありがとうございました。